鎌田 慧 連載コラム
「沈思実行」

下北核半島の現在(上)  第227回

2025/02/05
  最近、核燃料再処理工場の不合理性が問題になり始めている。危険性ばかりではない。存在のあまりの不合理が気づかれてきたのだ。弧状列島とも言われる日本本州の最北端、振り上げた手斧のように北海道にむけて突き出されている下北半島が舞台である。 

  『下北核半島』(2011年刊)と、わたしは名付けているのだが、戦後は米軍に占領された三沢基地のほかにも、射爆場や自衛基地、核再処理工場など核施設と東北電力、東京電力の原発が建設された。軍事と核の集中。日本でもっとも危険な地域と言える。 

  戦時中、陸奥湾内の大湊は、日本海軍の重要港だった。戦後、軍用鉄道建設のために強制連行されてきていた朝鮮人労働者が、帰国の途上、舞鶴沖で爆発、沈没、500人以上が死亡する悲劇もあった(「浮島丸」事件)。 

  その悲劇の大湊港に、戦後、三菱製鋼の電炉工場の建設計画が進められたが、挫折。さらにその跡に原子力船「むつ」の母港が建設されたが、これもまた、放射線漏れを起こして、廃船となった。 

  下北核半島。ちなみに言えば、ここはまた会津藩の悲劇の舞台でもあった。明治維新の際に「朝敵」とされて「陸奥の新領地に移封するもの二千八百戸となれり」「斗南藩と名付く。北海道以南各藩領ありといえども、ことごとく天子の領土なれば、『北斗以南皆帝州』と称す」(石光真人編著『ある明治人の記録』)。 

  つまり、北の果てに放逐されたが、そこは蝦えみし夷とはいっても、天皇の領地から追放されたのではない、との主張だったのであろう。 

  いま、ここに集積されているのは、再処理工場、ウラン濃縮工場、高レベル放射性廃棄物貯蔵管理センター、低レベル放射性廃棄物埋設センター、MOX燃料工場、東通原発(当初計画は東北、東京電力各10基、現在2基)。大間原発(フルMOX原発1基)、使用済み核燃料中間貯蔵施設などである。 

  そのうち、稼働したのは、ウラン濃縮工場だけ(いまは休止中)。そのすべてが、未完成である。国策、「新全国総合開発計画」発表から56 年が経った。