鎌田 慧 連載コラム
「沈思実行」

参院選が終わったあとで  第251回

2025/08/06
  この原稿を書いている時点で、石破茂首相がまだ居座っている。人気凋落の自民党に、この窮状を救える首相候補がいるのかどうか。次の選挙用に極右の高市早苗氏、カラ人気だけの小泉進次郎氏が取り沙汰されているほどに自民党は落ち目だ。自民票と公明票が減った分だけ、参政党と国民民主党が票を伸ばした。 

  自公政権が急速な落日を迎えているさなか、米国との関税交渉役の赤沢亮正経済再生大臣、8回もアメリカに行ったり来たりしていた。防衛費の増大やコメの輸入、安倍晋三元首相が大量に押し付けられた攻撃機などの兵器、それらを背負わされて帰国すると予想した。 

  8月1日から25%の相互関税開始、と脅かされていた。そして選挙の真っ盛りに「月、火曜日に来てくれ。合意できるならトランプ氏に会わせる」と言われて駆けつけた(「朝日新聞」7月24日)。 

  日本政府が5月に原案を提示していたときには、アメリカへの投資総額は1千億ドル程度と想定されていた。ところが交渉では4千億ドルとなり、呼びつけられたトランプの面前では、5500億ドル( 約80兆円)となった。 

  赤沢大臣はホワイトハウスで、トランプ氏と初めて会ったときに、赤いトランプ帽をかぶって見せ、「格下の格下」と卑下していた。軽く扱われたのだ。しかし、これらは米企業への融資額であって製品の購入額ではない。 

  ホワイトハウス高官によれば、ボーイング社製の航空機100機、米国産のコメの輸入を75%増やし、このほか、農産物をふくむ米国製品80億ドル(1・2兆円)分も購入する。これらの購入によって、米企業に対する支出は、年間140億ドルから170億ドルに増額される。

  トランプは「数十億ドル規模の防衛装備品などを購入することで合意した」とSNSに投稿した(「朝日新聞」)。対外的にはトランプに押しまくられ、対内的にはヒトラー『我が闘争』が愛読書の神谷宗幣参政党代表が羽振りをきかす。目を覆う惨状になりそうだ。排外主義に対抗する運動の大衆化を、どう拡げるかが問われている。