鎌田 慧 連載コラム
「沈思実行」

死刑存置国の恥辱  第259回

2025/10/01
  大阪拘置所に拘留されている死刑囚3人を原告として、大阪地裁に起こされた「死刑差し止め訴訟」は、9月2日に結審した。来年1月16日に判決が出される。しかし、これほど真摯な訴えはない。当事者が死刑は「残酷な刑罰だ」と、確実にくる刑死の恐怖を主張しているのだから切実だ。 

  ひとを殺しておいてなんだ、というのが人情であろう。しかし、死刑囚が死刑を恐れるのは、身につまされる。死刑囚たちがいうように、死刑は、まして絞首刑は、日本国憲法36条「公務員による拷問及び残虐な刑罰は、絶対にこれを禁ずる」という、明確な規定に背いている。 

  死刑大国だったアメリカでは、さいきん、半分以上の州で死刑は廃止されたが、死刑存置の州でも、絞首刑はやめて薬物注射に代えられた。しかし、強制的に命を奪うことには、変わりはない。 

  トランプ大統領は、彼の熱烈な支持者で、大統領選挙で活躍したチャーリー・カークを殺害した容疑者が逮捕されると「死刑にしろ」と言い放った。しかし、裁判もしないうちに「死刑!」と叫ぶのは、法の執行者としての大統領にあるまじき言動だ。 

  およそ州の半数弱とはいえ、アメリカは中国、北朝鮮、アラブ諸国のように、まだ死刑存置国。80年代に死刑廃止国は23カ国だったが、いまは世界の4分の3、112カ国が死刑を廃止した。 

  残念ながら日本の世論は、死刑護持派がまだ多い。昨年10月、死刑囚・袴田巌さんが死刑確定以来42 年ぶりで無罪確定となった。証拠の捏造が暴露された。死刑廃止運動に大きな力になるであろう。 

  2年11カ月ぶりに死刑が執行されたのは、秋葉原事件の加藤智大さんだった。それまでの空白を破ったのは、石破茂首相だった。彼はリベラルの顔を見せたが、敗戦記念日の平和宣言は発せず、結局、日和見のまま、辞任する。 

  最近、佐賀県警の科学捜査研究所の技術者が、DNA鑑定の数値を改かいざん竄していたことが暴露された。冤罪を生んでいなかっただろうか。冤罪で死刑囚になった犠牲者は袴田さんだけではない。