鎌田 慧 連載コラム
「沈思実行」

忘れてはいけない   第274回

2026/02/04
  中部電力の地震の揺れを過小評価した「基準地震動」捏ねつ造ぞう事件は、冤罪事件の警察による証拠でっち上げと同じ、犯罪行為である。冤罪は1人の人生にたいする不当な攻撃だが、原発事故の危険性を覆い隠すデータ改かい竄ざんは、数十万人の地域住民の運命を変える大犯罪だ。 

  もともと浜岡原発は南海トラフの巨大地震が想定される震源域に建設された、危険な原発である。福島事故の後、政府の指示を受けて休止していた。 

  原発再稼働を焦る、中電経営者の動機は何か。それはただ儲けたい、という非道徳な欲望でしかない。それは再稼働を焦る他の電力会社の経営者にも共通する欲望だが、データー改竄は果たして、中部電力のことだけなのだろうか。 

  福島事故から15年がたって、電力各社はとにかく、原発を稼働させようと躍起になっている。災害は忘れた頃にやってくる、と言われるが、最近、「原発の最大限活用」などという、岸田、石破、高市内閣と危険な原発回帰への欲望が膨れ上がってきた。 

  福島事故を起こした東電の柏崎刈羽の6号機も再稼働させられた。 

  原子炉の核分裂を制御する制御棒の引き抜き作業でトラブルを発生させ、剣けん呑のん極まりない再稼働は5時間で停止。立憲民主党と公明党によって結成された新党は、原発再稼働容認と集団的自衛権行使をふくむ安保法制も合憲、としている。日本列島、ケジメのない、いい加減さが罷まかり通っている。 

  それに抵抗するように、カメラマン豊田直巳の写真絵本『それでも「ふるさと」』(農文協・全10巻)が完結した。豊田さんは15年前の福島事故直後、真っ先に現地に駆けつけたカメラマンだった。それ以来取材を続け、今回のシリーズ10巻を完結させた。 

  最終巻の「消える風景 明日の願い」には、戦争中、陸軍の磐城飛行場建設で立ち退かされ、原発敷地から200mの土地に移り住んだ、門馬幸治さん宅の物語がある。原発事故でまた立ち退き、宅地は「中間貯蔵施設」にされて、姿を消した。そのような悲しい物語は無数にある。それを忘れてはいけない。