鎌田 慧 連載コラム
「沈思実行」

核のゴミの行方(下)  第207回

2024/08/28
  青森県むつ市の市長は国交省官僚だった宮下宗一郎氏だ。8月上旬、「国の原子力政策に貢献する」と、まるで政府の御用聞きのように、もっとも危険な使用済み核燃料を、地元のむつ市が受け入れる契約に調印した。 

  引き受けるのは「リサイクル燃料貯蔵」という、なにを貯蔵するのか、得体のしれない社名だが、株主は東京電力と日本原子力発電。原発のもっとも危険な使用済み核燃料を「中間貯蔵」する。そのために、9月までには引き受ける、日本最初の契約である。 

  これまで、むつ市が国から受け取ってきた「電源立地地域交付金」というアメ玉は、24年間で200億円以上。福島原発大事故のあと、政府は「緊急事態宣言」を発した。ところが、それが解除されないうちに、岸田首相は「原発回帰」「最大限の活用」などと号令をかけていたが、いまや首相の座から逃亡する。 

  むつ市長は将来への野望と当座の資金繰りに核燃料税の増設を狙い、県はこれからの5年間でおよそ2億5千万円の税収を見込んでいる。これから、50年以内に、むつ市から十数キロ南下した、六ヶ所村の再処理工場に運びこむという約束だが、肝心の再処理工場が50年後に稼働している見通しはない。 

  再処理工場の着工は1993年、それから31年経った。完成の発表を26回も延期、試運転さえ成功していない「幻影工場」だ。まるでカフカの小説『城』のように、遠くに見えていて、近づけば遠くなる。原発社会の見果てぬ「夢」というべきか、「悪夢」というべきか。 

  いま、全国の原発のプールには保管容量の80%、1万6770㌧の使用済み核燃料が溜まっている。「夢の増殖炉・もんじゅ」は1兆円浪費して廃炉。六ヶ所村の核燃料再処理工場には、すでに3兆3500億円投資、総事業費は15兆1000億円になるという。これらの資金は各家庭の電気料金で賄われている。 

  日本は危険な原発と危険な核廃棄物に囲まれている。それでも闇雲に原発再稼働と軍備拡大を進める。自民党政権は岸田がやめても依然として、亡国の党だ。