鎌田 慧 連載コラム
「沈思実行」

原発さえなければ  第183回

2024/02/28
  福島事故を思うとき、「原発さえなければ」の言葉が口を衝いて出たりする。福島第一原発から50㌔離れた相馬市で、40頭の乳牛を飼って家族4人、平和に暮らしていた54歳の酪農家の遺言である。

  「原発さえなければと思います。残った酪農家は原発にまけないで頑張って下さい」。 

  新築したばかりの堆肥舎。そのベニヤ板の壁に、白いチョークで大書して自死した。もちろん、原発に近い酪農家で、もっと経済的な打撃の大きかった人はいる。でも、「原発さえなければ」の言葉は、原発事故が奪った生活をみごとに言い表している。 

  原発事故から13年目の今年3月、なお事故の傷跡が癒えていない人たちは多数いる。それでも岸田首相は「我関せず」「唯我独尊」「酷薄冷血」男として、原発再稼働ばかりか、原発の新増設まで叫んでいる。裏金(闇の政治献金)が効いているのだ。 

  原発を「金きんす子力発電」というのは、わたしの50年来の主張だ。すべてカネ、カネ、カネをエネルギーに推進されてきた。原発は人間性を殺す敵対物だ。 

  これまで10年以上停止している原発の自治体、北海道泊村、青森県東通村、石川県志賀町、福井県敦賀市などに、経産省は最大限25億円を交付する。原発維持のためのカンフル注射だ。が、原発事故後に発生した甲状腺がんの子どもたちの健康と未来にたいして、政府はあまりにも冷淡だ。 

  事故以来、2018年末までに福島県立医大で、180名の甲状腺がん手術が行われた。震災時の平均年齢は13・3歳。腫瘍の大きさは16mm、乳頭がんが175名、リンパ腺転移が72%、甲状腺周囲組織浸潤が47%、肺転移が1・7%だった。同大の鈴木眞一医師は「過剰診断の心配は無用だ」といっている。

  小児甲状腺がんは100万人中1人から2人しか発症しない。福島県では18歳以下の県民約38万人から、少なくとも261人が手術済みである。マスコミはほとんど報道しない。

 「ミニコミ、口コミでも伝えよう」と井戸謙一弁護士(元裁判官)は主張している(「原子力資料情報室通信」596号)